Daydreaming in Brookline, MA

ウクライナ情勢調査メモ

1 はじめに

昨日は有給をとって日帰りスキーの予定だったのですが、snow stormがひどくて、スキー場に行く途中で断念して帰ってきてしまいました。返金が無いのが痛いです。。。AWDの車ですが、何度もお尻を振って怖い思いをしました。帰れなくなったり、立ち往生しなくて良かった、と思うようにします。

午後は暇だったので、ウクライナ情勢をネットで調べました。私はオピニオン記事(op-ed等)が好きなのですが、ニュートラルでバランスの良いメディアというものは存在しないと思うので、いろいろな記事にあたるようにしています。

2 記事

2.1 「田中宇の国際ニュース解説」より

バイデンがプーチンをウクライナ侵攻に導いた

田中氏の分析は陰謀論に偏りすぎに見えますが、情報収集力はすごいと思います。多くの記事にリンクが貼ってあるので、参考になります。まず大勢を知るのに重宝しています。日本語ですし。

  • ウクライナは大した抵抗もせずに、あっという間にロシアに制空権を取られた
  • 侵攻したロシア地上軍は10万人でなくせいぜい数千人規模(らしい)
  • 死者は200人以下。交通機関や電気ガス水道などのインフラは無事
  • SWIFTからのロシア除名は、ドイツがロシアの天然ガスに依存しているために無さそう
  • Putinの財産没収による制裁も外交カードとして取っておくために使えない
  • ウクライナはウクライナ系4対ロシア系3の人口構成で不安定

面白かったのは、「バイデンが米国や同盟国の大使館員を避難させたりして、米国はなんの対応も取らないという意思を示してお膳立てをしたことが、今回のロシア軍侵攻の原因となっている」という分析です。

2.2 From Al Jazeera

カタールのメディア Al Jazeera から2つ。アルジャジーラはイスラム系なので、欧米やアジアのニュースが比較的ニュートラルな立場から書かれているように思います。ここのオピニオン記事は面白いです。

Opinion: Is Putin’s gamble on Ukraine rational?

  • ロシア情勢専門家の多くは、今回のようなウクライナ侵攻を想定していなかった
  • 現地住民の多くが賛同したクリミアの併合とは異なり、ウクライナ住民は本当にロシアと戦うつもりだ。ロシア軍の人的被害も出るし、西側の経済制裁も痛い
  • Putinの行動は非合理だったと言われているが、もしそうでなかったら? ロシア軍がほとんど抵抗も無くウクライナを制圧し、西側の経済制裁も効果が無かったら?
  • ワシントンのロシアに対するアプローチを疑う時期なのかも。NATOやEUをロシアの国境に向かって広げたり、貿易障壁など近隣諸国からロシアを孤立させたのは賢かったのか?

Opinion: And so, Cold War II begins

筆者のMarwan Bishara氏はいつもするどいオピニオン記事を書いています。

  • ロシアが隣国を爆撃するとき、実際には戦略的な仇敵のアメリカを狙っている
  • 歴史的に見て、ロシアのような大国は、自国の核心的な安全保障上の利害に対して、他国からの制裁でひるんだりはしない
  • ロシアよりもずっと小さなイランでさえも、西側の懲罰的な方策は大いに堪えたかもしれないが、ほとんど態度を変えることができなかった
  • ロシアは中国に多くを依存している。ロシアと中国のXi JinpingはNATOの拡大に対する共同声明を出している。中国はロシアが「侵略」したことを認めず、双方の自制を求めた
  • 中国は、ロシアのウクライナ侵攻を、自国の台湾併合に重ね合わせてみている
  • ロシアは西側がやってきたことを真似ている。米国やヨーロッパが、リビヤなど他国への「人道的な介入」をしたように、ロシアはウクライナへの介入を正当化するために「虐殺」を止めるためと主張している
  • Putinの、ウクライナがロシアの脅かす核兵器を開発する能力があるとのとんでもない主張は、ワシントンがイラクに侵攻するための、サダム・フセインが大量破壊兵器を開発しているという主張と同じように滑稽だ
  • ロシアのウクライナでの政権変更の試みは、ベネズエラなどいくつかの国に対してアメリカが試みたことと同じだ。明らかにロシアはワシントンのトリックをマスターした。しかし、アメリカの愚行や失敗からは学んでいないようだ
  • 拒否権を持つ国連常任理事国は、「世界政府」(国連)の彼らに対するいかなるアクションも阻止できる。自制するインセンティブなど無い。

Profile: Who are Ukraine’s far-right Azov regiment? (3/5/2022追記)

  • Azov連隊は極右の志願歩兵で900名ほど。ネオナチや白人至上主義を醸成していると非難されている。 → ロシアの言うネオナチは、全く根拠無しというわけでなく、彼らを指していたようですね。
  • Azovはナチのイデオロギーを総体としては支持していないと主張しているが、鉤十字やSSのレガリアがAzovメンバーの制服の上で目立っている

2.3 From The Guradian

The Guardianはイギリスの高級紙の一つです。だいぶ左に寄っていますが、真摯な記事内容にいつも感心しています。

Opinion: We’re appalled by Putin now, but be clear: the west gave him the green light

  • Putinは嘘を元にウクライナ侵攻を正当化した。東ウクライナのロシア語を話す住民を、実際には存在しない「ネオナチ」による虐殺から守るために、モスクワは侵攻するのだ、と。(ウクライナの大統領も総理大臣もユダヤであるのに)
  • しかしPutinの狙いは、単にNATOの拡大に対するものではなく、もっと根源的だ。Putinによれば、旧ソビエトから分離独立した国々は正式な国ではなく、その中でただロシアだけが正式である。残りの国々の存在価値は曖昧で、Putin自身が決めることができる。Putinはヨーロッパの地図を描き直し、そのために血を流す権利があると信じている
  • Putinの考えよりも、「民主的な国は国際法によって守られる」というZelenskiyの主張に我々は共感できる。しかし、我々は本当にそう行動してきたのか?
  • Putinはこの15年間、彼の世界観を秘密にしてきたわけではない。2008年にジョージアの、2014年にウクライナの一部を併合したが、ほとんど代償を払わなかった。クリミアに対する西側の無行動を見て、Putinはゴーサインの信号を受け取っていた。
  • そして我々はPutinを止めるために何ができるのか。一連の経済制裁は中国などの助けもあり、ほとんど効果が無かった。何年も制裁され続けているイランでさえ、まだ頑張っていて、行動はほとんど変わっていない。軍事的にロシアと対峙することは全く非現実的である。
  • Putinはロシアがパワフルな核保有国であることを西側に知らしめている。専門家達は、Putinがロシアの核能力を理論上のものとは考えていないと言っている。誰もそんな危険な男とはやり合いたくない。より穏健な行動、たとえばウクライナに飛行禁止ゾーンを強制することは、Natoがロシアと戦争に入ることを意味する
  • 陰鬱なのは、ほとんど誰も向き合いたくない21世紀の現実をPutinは理解していることだ。現代は、強大な軍事力を持つを持つ一方で恥を知らない者にとって特にそうだが、罰せられない時代だ
  • 北京はこれを理解している。「ロシアがウクライナを取れるなら、中国が台湾を奪えないことは無い」と。

2.4 From Russian Today (RT.com)

Russian Today はロシア政府のプロパガンダメディアです。偏りは承知の上で、西側の人間の目を通していない、ロシアの素の主張が読めるので重宝しています。

Sergey Karaganov: Russia’s new foreign policy, the Putin Doctrine

Karaganovはロシアの政治学者で、YeltsinやPutinの大統領アドバイザーです。これはとても長い記事なので気になったところだけ。

  • ロシアは「建設的破壊(Constructive Destruction)」という外交の新たな時代に入った。建設的破壊は攻撃的ではない。ロシアはだれも攻撃しない。唯一の例外は、NATOによるウクライナの公式・非公式な拡大であり、これはモスクワが受け入れられない安全保障のリスクである
  • 旧ソビエトの崩壊以来、ソビエト後に出来た国家は真に独立できたわけではない。各国のエリートたちは立国する歴史的文化的な経験を持っておらず、国家の核になることができなかった。国家的な理想を持たず、自分の利益のために自分たちの国を売ってきた
  • 1990年にNATOは防衛のための組織と言えた。しかしそれ以来NATOとほとんどのメンバー国は、ユーゴスラビアやイラク、リビアでアグレッシブな軍事キャンペーンを展開してきた
  • NATOはメンバー国にとっても脅威である。対立を挑発する一方で、保護の保証はしない。NATOの第5条は、仲間の1国が攻撃されたら集団防衛を保証するということではない。その条項は、これが自動的に発動するとは言っていない。私はNATOの歴史とアメリカにおけるこの件の議論に詳しい。私は事実として、USは仲間の国が核保有国と対立したときに、彼らを守るために核兵器を使用することは決して無いことを知っている
  • 我々は、ウクライナがロシアの安全保障上の脅威となることを許してはいけない。あまりに多くの行政、政治、経済上のリソースをそれに使うことは非生産的である。もっと東、シベリアの開発に投資する方がずと効果的である。ロシアを強国にしたのはIvan the Terribleによるシベリアの併合であって、Aleksey Mikhaylovichによるウクライナの取得ではない。ロシアはウクライナなしで強国になれないという主張はむしろ反対であり、どんどん扱いにくくなるウクライナに邪魔されると強国になれない、という方が真実に近い
  • ロシアのもっとも有望な道は中国との関係を築き、強化することにある。もし西側がひどく敵対的なポリシーを続けるなら、中国との一時的な5カ年の防衛アライアンスを考えることは妥当であろう。

この後、腐敗した西側の資本主義や軍事ポリシーの代わりとなる、よりニュートラルな、大国としてのロシアならではの価値観を作っていく必要がある、ような話が延々と続きます。

RT America ceases productions and lays off most of its staff (CNN; 3/5/2022追記)

  • ワシントンDCにあるRT Americaが閉鎖され、スタッフはレイオフされた "as a result of unforeseen business interruption events." → DirecTVやRokuが放映を止めたことを言っているのですかね。

Kremlin reveals goal of Ukraine offensive (3/5/2022追記)

  • ロシア軍はウクライナを分裂させる意図を持たない。「2014年のクーデター以来、ウクライナはナチのイデオロギーに影響されている。我々はウクライナをこのイデオロギーから開放したい。」ロシアの報道補佐官ドミトリーペスコフは言った
  • ロシアには、ドンバスの2つの分離した領域(DonetskとLugansk)住民の安全を保証する義務がある。これらにはロシア語を話す住民が多く住んでいて、ロシアは70万以上のパスポートを発行した。
  • キエフはこれら2つの共和国への攻撃を計画していたので、ロシアは介入してウクライナを非軍事化し、彼らを守る必要があった。
  • モスクワは国境近くのNATOのプレゼンスに猛烈に反対しており、US主導の軍事ブロック(NATO)の拡大とキエフの参加を止め、安全保障を確保するためのミッションを始めた

なるほど。やはり昔のソ連の一部にまでNATOが拡大してくることを、なんとしてでも阻止したかったのですね。「ロシアがウクライナと戦争するように仕向けたのは西側である」という意見には、一定の真実味があるように思います。