Daydreaming in Brookline, MA

初めて自力で行うアメリカ確定申告

1 はじめに

年が明けてアメリカでは確定申告のシーズンが始まりました。 私は去年の10月に現地企業に転職していて、今年(2020年分)から自分で確定申告をする必要があります。

2 プロに頼むか自力でやるか

アメリカで確認申告するには、プロの会計士にお願いするか、TurboTax等の確定申告用アプリを使って自力で行うことが普通のようです。

周囲の人たちから「最初の年はプロに任せたら」というアドバイスをいただいていましたが、去年プロに作成していただいた書類一式があったので、行けるところまで自力でやってみることにしました。

もし自力では無理だとわかったら、それからプロに頼んでも4/18の提出期限にはまだ間に合うはずなので。

3 確定申告書類の解読

年が明けて、まずは去年の分の確定申告書類を解読するところから着手しました。大きく分けて3種類の書類がありました。

  • Federal(連邦=国)用申告書類
  • State(州)用申告書類
  • FBAR書類

3.1 Federal用申告書類

Federal用申告書類が一番ページ数が多く、解読が大変でした。1040という大本となるフォームに主要ポイントを記載し、補足のフォームを使ってなぜそれらの数字が出てきたかを説明するようになっています。

(スマホの)電卓を横に置き、各数字が計算によって出されたものなのか、元となる数字なのかを一つ一つ見ていきました。

以下、アメリカに来ている日本人に当てはまりそうなフォームです。

3.1.1 Form 8949 Sales and Other Dispositions of Capital Assets

補足フォームの一つで、海外(私の場合は日本)で売却した株式の詳細情報が記載されています。株式銘柄、何月何日に売却した数、その取得日、取得金額、売却金額、売却益の情報が必要で、これらを集めるのにとても苦労したと記憶しています。

3.1.2 Form 1116 Foreign Tax Credit

補足フォームで、海外(日本)での収入や源泉徴収された税金等が書かれています。

出向開始前の数週間分の日本での収入はGeneral category incomeとして、株式売却益、利息や配当などはPassive categocy incomeとして、それぞれ別のForm 1116が用意されていました。

なお、出向中に日本の銀行に振り込まれた日本給与については、米国給与と一緒に既に報告されていたため、別途Form 1116では報告されていませんでした。このことを理解するまでが大変でした。

3.1.3 Form 8938 Statement of Specified Foreign Financial Assets

補足フォームで、ここに海外(日本)に持つ銀行や証券口座の情報を記載します。これらの情報を集めるのがとても大変なので、出向前に日本の銀行や証券口座はなるべくオンラインでアクセスできるように手続きしていおきました。しかし、財形の口座などいくつかオンラインでアクセスできないものがあり、これらは電話で確認するしかありませんでした。

3.1.4 Schedule 8812 Credits for QUalifying Children and Other Dependents

今回調査して初めて、子供の扶養控除が$500しか無いことに気が付きました。不思議に思って調べたところ、日本で生まれた子供はSSNを持たないために$500しか控除されないそうです。こんなところでひどい差別です。。。

3.2 State用申告書類

State用申告書類はFederalのときに出した数字が元になっていて、Federalの書類と比べてシンプルです。しかし、州ならではのこだわりポイントが盛り込まれています。例えば、私の住むMassachusetts州では健康保険に加入していないと高額のペナルティーが課せられます。

3.3 FBAR書類(FinCEN Form 114)

FBAR(Repot of Foreign Bank and Financial Accounts)は確定申告の書類ではありません。提出先も国税庁相当のIRS (Internal Revenue Servie)ではなく、FinCEN事務所(the office of financial crimes enforcement network)というところになります。

これで国外に持っている銀行や証券会社の口座情報を報告します。確定申告のForm 8938というよく似た書類がありますが、Form 8938は税金を取るためのものであるのに対し、FinCen Form 114は国際的な金融犯罪防止を目的としています。

FBARのForm 114もForm 8938も同じ元情報から作成し、提出期限も近いことから、一緒に作成して提出することが効率良いです。

私は今回調査するまで、恥ずかしながらFBARのことを知らなかったため、去年は出し忘れたのかと思ってだいぶ焦りました。結局は会計事務所が手続きしておいてくれていました。

去年の書類と違うことは、転職のために日本で退職金をもらっていることくらいなので、まあ自力でも何とか行けそうな気がしてきました。

4 TurboTaxを使ってみる

確定申告用のアプリは数種類ありますが、アメリカに住んでいる日本の方の多くがTurboTaxを推奨しているようなので、これを試すことにしました。

TurboTaxは会社等からもらっているW-2(源泉徴収票相当)等の書類をインポートして、質問に答えていけば、確定申告書類が出来上がってオンライン申請までしてくれるという触れ込みです。実際に、収入ソースが勤め先からの給与だけであるような場合は、1時間くらいで申告が終わるようです。銀行や証券会社は確定申告用の書類を用意してくれているので、後はこれらを取り込むだけです。

私の場合は、日本に銀行や証券口座をいくつか持っているのと、日本で退職金を得ているところで、多くの手動入力が必要になりました。まあ、日本の口座については、去年までプロにお願いしていたときも、元データはしっかりと用意していたため、手間はあまり変わりませんでした。むしろ、どこの円ドル為替レートを使えばよいのか、というところで勝手がわからずに苦労しました。

為替レートは調査の結果、Form 8938では口座が最高額となった日の レート を使い、FBARのForm 114ではその年の 指定レート (のサイトでDec 2021をクリック)を使いました。管轄が違うのはわかるのですが、わかりやすいように(できればFBARに合わせて年間共通レートで)統一しておいて欲しかったです。お役所の縦割りは日米で変わらないようです。

4.1 Form 1116 Foreign Tax Credit

海外(日本)での収入や源泉徴収された税金等が書かれているフォームです。日本での退職金はここのGeneral category incomeにlump-sum retirement allowanceという説明で記載しました。名前こそ退職金としましたが、アメリカでは退職金とは認められないために通常の収入の箇所に記載しています。

4.2 Form 8606 Nondeductible IRAs

転職してアメリカの年金制度401(K)を始めたので、このフォームが新たに付きました。入金分がここに記載されています。私は通常のTraditional IRAを選んだので、入金時は非課税です。

4.3 Form 8889 Health Savings Accounts

Health Savings Account (HSA)への入金分はここに記載されました。HSAは入金時には税金がかからないため、わざわざ専用フォームが用意されています。

4.4 Form 8960 Net Investment Income Tax

去年からアメリカの証券会社で投資を開始したので、ボンドの利子や株式配当がここに記載されるようになりました。取り込んだ情報で完結しており、私はそれ以上に手を動かしていません。

4.5 MA州用2021 Schedule HC

加入していた・いる健康保険の情報を記載します。

5 去年の提出書類と照らし合わせる

去年の提出書類はプロに作成いただいたものなので、これと比較してミスを潰していきました。結果的に、このステップは必須であったと思います:

  • 退職金の入力で、一部受取額を入れるところに、手違いで税額を入れている箇所がありました。これを修正したところ、数千ドル以上の節税になりました。あぶない、あぶない。
  • MA州の提出書類(Schedule HC)で、最初は健康保険未加入になっており、ペナルティーとして夫婦で3500ドル近く取られていたことに気が付きました。慌てて保険の情報を集めて入力しました。
  • 転職前まで日本の会社から提供されていた保険会社のFederal Identification Numberを入手するために、保険会社(厳密には給付申請代行業者)や前の会社の総務、海外関連会社の総務などに問い合わせたのですが、日本の会社であるためか、結局出てきませんでした。ダミーとして11-0000000のような値を入れて提出しました(00-0000000だとおせっかいなTurboTaxが文句を言います)。これでよかったのでしょうか。。
  • その他、細かいミスがいくつか見つかりました。

6 遭遇したトラブル

6.1 Form 1116とSchedule B書類の対応遅れ

確定申告期間は始まっているというのに、IRSが2021年用のForm 1116を遅らせていて公開していませんでした。もちろん、TurboTaxはIRSのリリースを待ってから対応するため、3月頭までかかると言っていました。

しかし、3月頭になっても対応されている気配がありません。 フォーム対応予定ページ を見ると、しれっと締め切りが延びていました。延びた締切まで待ったら、今度はForm 1116に付属するSchedule B書類は更に遅れるとしてきました。e-file(オンライン申請)には対応せず郵送しかできないと言ってみたり、TurboTaxの方針が二転三転して、サポート 掲示板 が大変なことになっていました。

結局は、3月半ばすぎにようやくTurboTaxの対応が終わり、入力&e-fileできるようになりました。こういったことは結構あるようで、同僚の一人は4月になるまで待ってから一気に確定申告すると言っていました。

6.2 e-fileが失敗する

昨年の書類との突き合わせも終わり、満を持してe-file(オンライン申請)にトライしたところ、20分後にIRSから拒絶されたとのメールが来ました。IRSはe-fileにあたって本人確認のために去年の申告書類にあるAGI (Adjusted Gross Income)の値を使うのですが、これが間違っているというのです。去年プロに作成いただいた書類に載っていた数字を使ったのですが。。。

慌てて去年の書類を作成いただいた会計事務所に問い合わせたところ、数字は合っているとのことでした。ネットを検索したところ、IRSの処理が遅れている場合はAGIをゼロとするとよいとの情報を得ました。改めてAGI=$0として提出しましたが、またもや拒絶されました。

どうしたものかと悩んでいたところ、拒絶エラーコードが「配偶者の」AGIが違う、に変わっていることに気が付きました。私と妻は一緒に(Married Filing Jointlyで)確定申告したため、AGIは同じはずです。しかし物は試しで、私はAGIゼロ、妻は去年の正しい値を入れて再度チャレンジしたところ、見事に受領されました。こんなことってあるんですね。。。

7 終わりに

行けるところまで自力でやってみよう、で始めた初の自力での米国確定申告でしたが、想定外の苦労をたくさんしてしまいました。素直に周りのアドバイスに従ってプロにお願いするべきだったかもしれません。

唯一の救いは、去年会計事務所に作っていただいた書類一式があったことで、もしこれも無ければ手も足も出なかっただろうと思います。

まあ、来年は今年よりも幾分楽に申告が完了する、、、といいな。