Daydreaming in Brookline, MA

上級者向け英語学習法(考察編)

1 はじめに

今回のエントリーでは、日本だと英語上級者とみなされるTOEIC 900点以上、英検1級取得前後の人が、更に英語力を向上させるための学習法について考えてみます。

2 上級者向け学習について

2.1 Comprehensible Input (CI)

CI はStephen Krashenが1970, 80年代に提唱した仮説(の一部)です。現在のあなたの対象言語における語学力を i とすると、 i+1 の、ほぼ理解できるレベルのインプットを大量にすることで、語学力の向上を図るというやり方です。今でも多くの学習者に支持されていて、英語系YouTuberが絶賛しているのを何度か聞いたことがあるかもしれません。

インプット対象はテレビやYouTubeビデオ、ポッドキャスト、本、雑誌などなど。CIの大事なポイントはcomprehensible、すなわち意味が取れるということです。脳には必要のない情報をすべて雑音として排除して、必要な情報のみを取り入れる機能が備わっています。このため、意味も追わずに聞こえてくる音声は、リスニングの学習効果はありません。

脳は、リスニングやリーディングで入ってきた言葉の情報から意味を取り出し、脳内に言語回路を作り上げていきます。意味を取り出すことと、それを言語回路として蓄積していくことが、つまりリスニングやリーディング力を付けるということになります。

テレビなどの映像メディアでは、コンテキストが視覚的に入ってくるため、50〜70%も聞き取れればストーリーは十分理解できると思います。一方、本や雑誌は活字主体のため、2〜3行に一つ知らない単語があるとだいぶ厳しいです。

CIを学習のメインにすることでいいと思いますが、CIだけだと話せるようにならない、あるいは話しても多くの文法間違いをするという例が多く見られるようなので、スピーキングのトレーニングは別にやったほうが良さそうです。

前者の例はアメリカへの移民で、両親は母国語のみを話し、その子供は英語で返答するというよくあるケース。両親の母国語でのリスニングはニュース番組等も含めて100%できるのに、スピーキングがほぼできないそうです。後者の例は英語が公用語で、大量の英語メディアを視聴している国民。多くの人達は話す際に文法間違い(例: "a buildings")が多いそうです。

この後者の例は非常に面白い観察です。大量の英語を聞いているのに、細かい文法は脳内で雑情報として捨てられ、言語回路の蓄積に使われていないのです。ネイティブは"a buildings"をキモチワルイと感じますが、その語感が形成されないのです。

2.2 スピーキング

私はアメリカにトータルで8年近く住んでいますが、思うようにスピーキングが上達しませんでした。リモートワークであることと、家庭内では家族のために日本語を使わざるを得ないのがハンディキャップではありますが、それにしても思うように話せないという現実に直面して残念に思っています。

自己分析してみるに、いくつかの弱点があります。

  • 話したいことを無意識に、瞬時に英語で表現できない
  • なので、頭の中で英文を組み立てていると、その間はリスニングができない
  • 話す英語に文法間違いが多い(読めば間違いを指摘できるのに。。。)

「スピーキングは慣れだよ」のようなことをよく耳にしますが、これはある意味的を射ていると思います。ただし、単に場数というよりは、むしろ車の運転や楽器の演奏のように頭でなく体で覚える必要があるようです。英語テキストの音読練習をしてみるとわかりますが、センテンスを自然に言えるようになるには、かなりの回数の繰り返し練習が必要です。

スピーキングを向上させるには、受け身のインプットでない、何度も口に出して筋肉に覚えさせるようなトレーニングが大事です。

2.3 ボキャブラリー

ボキャブラリーがある程度のレベルになったら、リーディングを大量にすることで増やすべきという意見があります。ボキャビルで増やせるのは、ほんの1,2の意味だけであって、あえて言えば薄っぺらい知識です。一つの単語にはもっと多くの意味があって、それは実際に使われているコンテキストに多く遭遇することで多層的に身につけるべきという考え方です。

私としては、この考え方は正しいものの、とっかかりを作る意味でボキャビルに意味があると思います。つまり、知らない単語に出会った時にコンテキストだけから意味を推測するだけでなく、知っている1つか2つの意味からその文脈における単語の意味を推測するほうが、正しく意味が読み取れる可能性が高いです。実際に、TIMEのエッセイ記事などの難しい記事を読む時に、ボキャビルした浅い単語の知識が大きく役に立ちます。おそらくボキャビルは必須ではないものの、自分の読める難易度の範囲を広げる意味の底上げになると思います。

私の感覚的には、英検1級のパス単くらいまで語彙を底上げしておくと、読める本や雑誌の世界がぐっと広がるように思います。しかしボキャビルは補助的に使うものであって、多読と組み合わせることが大事です。

2.4 文字よりむしろ音の情報を使う

語学学習において、昔は音声教材を用意することが難しかったために、テキスト(文字)中心でした。本物の英語音声に触れるコストが非常に高かったのです。最近は技術の進歩に伴って、本物の英語の音声情報にアクセスすることが極めて容易になりました。これを利用しない手はありません。そもそも、言葉は音が第一であって、文字はそれを記録するために後から発明されたものなのですから。

リスニングはもちろん、音読にしろボキャビルにしろ、ネイティブの話す本物の英語音声を使うべきです。ここで問題になるのは、テキストに付属するCDやダウンロードできる音声データの使いづらさです。本当に聞きたい箇所のみをくり返し聞くことが意外と難しい。例えば、どうしても言いづらい一つのセンテンスのみ10回繰り返す、ようなことです。

これを克服するために、AIを使ったtext-to-speechのWebサービスを利用するのがよいと思います。例えばこのサイト は無料で使え、スピードも変えられます。私が使っているのは luvvoice という(多分)マイナーなサイトです。前出のサイトと比べて使い勝手に多少難がありますが、英語が本当にナチュラルです。

なお、ボキャビル用のアプリは、発音機能が備わっているものを使うのがよいと思います。

2.5 immersion

英語上級者が更に上達するためには、英語に触れる機会を可能な限り増やすしかありません。見るテレビやYouTubeビデオは全て英語にします。読む本や雑誌も全て英語にします。聞く音楽も英語です。ネットでの調べ物は英語でします。。。というような感じで、自分の生活環境をどれだけ英語で置き換えられるかを考えて実践することが、あなたにできるimmersionです。うまくやれば、実際にアメリカに住んでいる私よりも余程英語にふれる機会を増やすことができます。

2.6 日本語を介在させない

上級者になったら、英語を英語のまま理解したり、日本語を介さずに話したり作文したりできると思います。ところが、上級者向けなはずの英検1級用単語集でさえ、なぜか英単語を日本語に対応させて覚えるものばかりです。いつまでも補助輪付きの自転車に乗っているようなものです。通訳者や翻訳者を目指すのでなければ、いい加減、母国語の助けを借りるのは卒業しませんか。

英語で書かれた英語テキストや単語集はいくらでもあります。英検1級パス単のかわりに、Barron's 1100 words you need to knowやWordly Wise 3000を使いませんか。パス単よりも覚えるための工夫が多く入っています。

2.7 英検1級を目指すのをやめる

英検1級って、格好いいですよね。なんだかんだ言われてますが、日本で最高峰の英語テストです。準備のための勉強もかなり大変で、合格したらさぞや達成感があると思います。

しかし英語圏に来てみると、英検1級には全く魅力を感じません。つまり、これに合格したからといって英語の運用能力がそれほど高くなったとは言えないからです。他の技能と比べてバランス悪く高難易度の語彙や、通常の会話のシチュエーションとはだいぶ異なる上に、数週間で対策できるスピーキングなど。英検1級で求められる即興スピーチは、ネイティブでも苦手な人が多いです。それを付け刃の知識と型で乗り切るのは、試験対策以上の意味は薄いように思います。

語学が最終的には語彙だ、というのは本当です。しかし少なくとも、英検1級を目指して勉強している人は、語彙と比較してその他の能力が低すぎると思います。ネイティブ達の白熱している議論に口を挟んで意見を言うことができますか? 職場に一人や二人はいる妙に早口な人や、インド訛りの英語が聞き取れますか? Sherlockのような難し目の海外ドラマ(字幕なし)が理解できますか? DickensやJane Austenの小説が楽しめますか?

。。。というようなことを目指して勉強したほうが、よいのではないでしょうか。どうしても試験を目標にしたいなら、せめて国際的に認知されている CEFR のC2やC1を目指すとか。

3 終わりに

ではどうすればいいのか、に辿り着く前に十分長くなってしまいました。今回は、上級者向け学習方法について考えてみました。